太陽光発電と熱海の土石流

先日、熱海市で大規模な土石流が発生し、死者も出た。当然犯人探しが始まるわけで、近くにある太陽光発電所が原因ではないかとの噂も出ている。ネットでは有名なYoutuberもこの件を取り上げて原因が太陽光発電であると決めつけて情報を拡散している状況だ。

ニュースによれば、上流地域での違法な盛り土が原因であるとのことで、太陽光発電との関連は指摘されていない。近くの太陽光発電所の工事をするときに、切った土をこの谷に運んで捨てていたとしたら(不法投棄)問題だが、その可能性は少ないだろう。一定以上の森林を伐採する場合、林地開発許可が必要で、地表をどのように整えるのか、どこの土をどれだけの切り、どこに運ぶのか、厳密な計算のもとに届けなければならない。あれほどの土を不法投棄したとなればその出所はすぐわかるはずだ。山林を切り開く場合、基本的には切土と盛土の量を等しくし、敷地内処理が求められるはずだ。

私は日本の土木技術に希望を持っている。確かに木を切ると地表を流れる水は恐ろしいほどだ。私も工事現場で実際に見てきたからわかる。どんどん地表を削っていく。盛土などひとたまりもない。土木は水との戦いだ。しかし、きちんとした水処理をすれば、木を切る前と同等以上の安全性を確保できるのだ。だからこそ山間部にも道路を通すことができるし、家や田畑を作ることができる。問題はルールを守らない業者がいるということである。

開発許可を得るには、何十年、あるいは百年に一度という大雨を想定し、土地内のどこに降った雨がどちらにどれだけ流れていくかを計算し、それを受け止める排水路の大きさと長さを決定し、さらにその雨を受け止めてゆっくり外部に流すための調整池を設計する。それを業者が設計し、役所が確認して許可が出る。もしこの調整池でも受け取れなかったら?そのような雨ならそもそも開発がなくても山が崩れていただろう。

確かに太陽光発電にはいろいろな問題がある。CO2削減の効果もどれほどのものかわからない。中国の人権問題、FIT制度の不備など、前回の記事でも書いたが私も問題が多いと感じている。しかし、それを今回の事故と関連付けるのは早計だ。むしろ、今回の事故で日本の土木技術が低く見られるのが残念で仕方がない。

ただし、既存のすべてのメガソーラーが安全だと言うつもりもない。土木会社に技術があっても、きちんとした工事期間と工法がなけれなければなんにもならない。多くのメガソーラー開発会社は利益を優先し、土木会社を軽視する傾向があり、その場合安全性に不安が残る。今、多くのFIT開発案件は、まだ買取価格が高かったときの案件を抱えており、それらの案件は一日でも早く稼働させないと固定買い取り期間が短くなってしまう。その損失は一日あたり数十万円から数百万円にもなる。そのために工事会社に相当無理を行っているケースがあると思う。制度の運用にももっと工夫が必要だろう。

Youtubeなどを見ていると、土木の人を社会の底辺のように扱う話がよく出てくるが、一緒に働いてみると、彼らは非常に明晰でたくましく、経験と技術に裏付けられた仕事をしてくれる。私は彼らの仕事が不当に評価されるのが残念で仕方がないのだ。